ずっと気になっていて、本屋さんに行くたびに平積みになってるところを見ながら、通り過ぎてまた引き返して・・・と中々勇気がなくて手に取れなかった作品でした。本屋大賞にノミネートされたということで、そっと背中を押してもらって手に取りました。
私は野球が大好きだった
私は小学生の時から高校野球が好きで、全国の地方大会までチェックするぐらいのめり込んでいた。
甲子園を目指している高校が自分とは別世界のように感じていたからか、高校生になった時に初めて「あ、自分の高校の野球部も予選に出るんだ」と思った。その後大学生になって、ひょんなことから体育会の準硬式野球部のマネージャーをすることになった。
そこには当然、硬式野球部のセレクションに落ちたメンバーもいたし、甲子園にでた子もいた。あと一歩のところまでいった高校のキャプテンもいた。軟式野球で全国制覇したメンバーもいた。
そこで「高校野球とは」の声を色々聞いた。当然、大学へセレクションできたメンバーの話はかなりえげつない。とびぬけた実力があると別だけど、そうでなければみんな上手な選手ばかり。そこで何をみてその選手をとるかは、もう監督の好みなわけ。
私が所属していた部にセレクションで来た人達にきいてみると「自分は〇〇だから大学の監督に選ばれたと思う」とか「高校の監督は〇〇だから推薦してくれたと思う」って自分を評価していた。決して、全国で勝ち上がるチームではなかった上に準硬式なので、その評価はだいぶん辛い。
この本の母親の視点はもっともっとピリピリしていそうで怖かった。私はこういったヒリヒリするような場面の経験がないし、これから先経験をすることもないだろうと思う。それが、「どうせ、私は」という後むきな気持ちにもなるけれど、「そんなドキドキ無理」と逃げられて良かったともいう、何とも親の風上にも置けないような感情も湧いた。
自分が熱中した経験がある高校野球が舞台だったこそ、手に取ることがためらわれたんだ。
「なんか、こういう感じって久しぶりだなって瞬間があるんだよね」
野球部の父母会の中でのゴタゴタを「久しぶり」って表現してる。自分が通っていた中学の教室の雰囲気って。この「中学」って言うのがミソなんだろうな。小学校のように保護者の影響が大きいわけでなく、子供だけのマウントとりあいの、あの空間。まだ、「私はこうだから」と一線引くのもできない時期。
ほんと、そうだなー。中学時代を思い出しつつ大人になってからの感覚だと、園や小学校のPTAも似たようなものかもしれない。しんどいよね。でも、その父母会の横には子供たちの部活動があるし、保護者の立ち回り如何で子供の立場も変わるかもしれないという不安があって、ほんと、大変。もう、人質をとられている気持ちになってしまうもんね。
「野球部は特別って顔をしすぎなんや。先輩たちも監督も」
これを、現役の野球部員が言えるってすごい。確かに、野球部だけ地区予選からバスがでたり吹奏楽が遠征したり。そういうものだって思ってたけど、よく考えれば特別扱いだ。私は春の選抜って、高校野球の代名詞かと思っていたから、大学生になったときに別の部活の子に「失礼な!」と言われたことを思い出す。確かに失礼な話だ。保護者の団結も、学校での声も、吹奏楽部を出動させるのも、野球部って大きいなーと感じた。
そんな「そういうもの」となりがちな空気を「変えていこう」とする、「なんでもやってみる」って高校三年間で中々できないよなーと思った。やはり、自分の頭で色々考えてやれることを実際に行動にうつしていける子たちはすごい。
「絶対に行くべきよ。お金のことなら心配いらないから」
これは、母が子に伝えた言葉。私は我が子にこれが言えるだろうか・・・。できる限り子供を応援したい。でも借金してでも、となるのは怖い。どちらかといえば、子供が生まれたときからコツコツ準備していた分でなんとか、というところだろうか。
子供と同じ方向をむいて、一緒に全力で頑張れることは憧れる。ただ、今の自分に置き換えるとどこまでできるだろうか。子供は二人だし、どちらもそれぞれ手がかかる。同じ方向を向けているかはわからないけれど、少し先をみこして、色々準備をしておくことはやっているかな。
それは夢ではないかもしれない、でも穏やかな生活がつかみとれるよう頑張る。
おわりに
読んだ後には「今どきの高校生ってこんなに大人なの!?」と驚く。周りが見えてて、どう戦っていくのか戦略を練って、親に感謝して、自分の場所を見つけて、そこで努力できるって、そういう子たちがプロにいくんだろうか。
あまりにも、我が家の高校生と違いすぎて現実感がなかった。
つい現実に戻ると比べてしまうので「小説なんだ」と確認する感じ。どうしても、もやもやすることがでてきて、本当に「中学の教室」感を小説の中の母親だけじゃなくて、読者である私も感じてしまった。
心にズドーンと、胃もたれするようななんとも言えない感情の揺れを感じる作品だった。

感情を揺らしたい方は是非